さて話はふたたび大相撲に戻ります。土俵の上に大きな「吊り屋根」が掛かっていますが、その四隅にそれぞれ色の異なる大きな「房」が下がっているのに気付いたことはありますか?
アナウンサーが審判の交替を告げるとき「青房下審判は○○親方、元関脇○○山です」などとその位置を示すのに吊り屋根の「房」の色で紹介します。「アオブサシタ」「クロブサシタ」──そういえば聞いたおぼえが、あるのではありませんか?
青房、赤房、白房、黒房が吊り屋根の東南西北にそれぞれ配されています。そして中央が土用の黄色で「黄土」とされています。まさに陰陽五行で、四神相応というわけです。
横綱は、四色の房に象徴される四神の見守る結界で土俵入りし、地から天へせりあがる。力強く四股を踏むことで、地の負(陰)を鎮め、天の勝(陽)へと祈り上げる呪術的作法なのです。ちなみにこの所作は、もともとは陰陽師の反閇(へんぱい)という歩行術から来ています。
行司の掛け声「ハッケヨイ」というのも、あらためて考えると不思議な言葉だと思いませんか?「ハッケヨイ、ノコッタノコッタ!」このようなボキャブラリーは、私たちの日常にはまずないでしょう。
「ハッケヨイ」とは「発気揚揚」がなまったもので、気を高めて全力で勝負しようという意味との説もありますが、私は「八卦良い」と解釈しています。地鎮祭が滞りなくおこなわれた結果、良い八卦になったので安心、という訳です。もっとも「気」も「卦」も風水用語で、いずれも意味は通ります。
地鎮祭の様式は、時代によって地域によって多少の変化はありますが、その意味するところから一貫するものは不動です。土俵入りと同様に、地鎮祭はその地に四神相応をバーチャルで出現させるものです。そして中央に斎庭(ゆにわ)という結界を造ります。
よりていねいにおこなうのであれば、忌竹(斎竹)は榊に代えて、また四神を表す四色のひれを四方に下げてご奉仕したいものです。ちなみに「古事記」では「根こそぎの榊」と示されているので、本来は根の付いた一本の樹木としての榊がベストです。ただ、そうなるとなかなか手配が難しい。また、人の背丈よりも高いのが望ましいのですが、そういった事情から比較的容易に入手できる青竹で代用するようになったようです。
ちなみに、竹は日本人好みであって、七夕で五色の短冊を掛ける笹飾りや、戎講の「ささもってこい」の小枝、盂蘭盆会の盆棚など、神仏にかかわることには優先的に使われます。青竹の地鎮祭も、なかなか良いものです。
なお、神職から特に指示のない限り、供物(海の幸、山の幸)や御神酒(おみき)などすべて用意してくれますが、最小限「水」だけは自分で準備すべきです。その界隈の湧水や井戸水がベストですが、近年は便利なものがあります。ミネラルウォーターとして販売されている各地の名水です。今年の恵方(吉方位)は東北東(東微北)ですから、東京であれば鹿島・香取方面の水がおすすめです。
さて、地鎮祭が済んだら、いよいよ建築工事の開始です。つまり「八卦」が「良くなった」から、さあ建てましょう、ということですね。ハッケヨイ!
(第2回 了)
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