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 第二回 地鎮祭
 第一回 鬼門
風水で快適生活

第二回 地鎮祭
文/戸矢 学

地の神にご挨拶
 

大相撲の「横綱土俵入り」を知らない日本人はいないでしょう。世界的にもかなり知られた日本文化の一つですね。
しかしどうしてあのような様式(スタイル)でおこなうのか、またどのような意味があるのか、たぶん知っている人は少ないと思います。

最も強い力士が腰に注連縄(しめなわ)を張って、かしわ手を拍ち、四股(しこ)を踏む。その時、背後では立て行司が祭文(さいもん)という祝詞を唱えます。
儀式としての条件がそろったので気が付いたかもしれませんが、土俵入りは実は神道行事の「地鎮祭」なのです。

「地鎮」とは「地の神を鎮めること」。膂力に最もすぐれた横綱が四股を踏むことで、地の神が鎮まります。土俵は場所ごとに新たに土を固めて造られますが、その仕上げの作業が「土俵入り」なのです。
家を建てるときに最初におこなうことは「整地」ですね。
つまり、土俵を新たに造るのと同じで、その際にまずは地の神にご挨拶して鎮まっていただかなければなりません。

そこで「地鎮祭」がおこなわれる訳ですが、これはとても古くからおこなわれているものです。持統天皇5年(691)の藤原京造営に先立っておこなわれたものが記録としては最も古いものですが(日本書紀)、それ以前にもおこなわれていたかもしれません。
現在の地鎮祭は、更地の真ん中辺りに4本の竹を立てて、ぐるりと注連縄を掛け回し、神饌(しんせん)を供え、神職が祝詞を奏上、土地と参列者をお祓いするのが一般的です。 個人宅であれば、施主と工務店の代表など数人が列席して30分くらいで完了。
その土地の神様にご挨拶して、そこに家を建てて住まいすることを奉告する、という意味があります。

これで建築工事の間も事故がないように地神地霊に守られて、完成してからも(建前など節目のお祭りは地方によって変化がありますが)住居が思わぬ災害に遭わないように守護されます。

 
四神相応を演出する
 

風水で特にすぐれた土地、つまり運気の良い土地を「四神相応(しじんそうおう)の地」と云います。
「四神」とは、青龍、朱雀、白虎、玄武。東南西北それぞれに配置された神の使いである神獣です。

青い龍と白い虎はわかりやすいと思いますが、朱雀(すざく)とは「赤い鳥」のことで、鳳凰です。手塚治虫の「火の鳥」も朱雀ですが、別名「不死鳥(フェニックス)」とも呼ばれています。
玄武(げんぶ)とは「黒い鼈(すっぽん)」のこと。その絵を見ると、亀に蛇が巻き付いている姿をしていますが、これは古代には鼈は蛇と交尾すると考えられていたことによっています。
青龍は河川を、朱雀は池や平地を、白虎は道や峰を、そして玄武は山を象徴し、これらが東南西北に揃う場所(相応する場所)を大吉とします。

これらを整理すると、下の表のように様々な要素が対応するのですが、これが「陰陽五行説」という風水の原理の基本です。

方位 中央 西
四神 青龍 朱雀 白虎 玄武
五行
色彩
時季 土用
陰陽

五行である木火土金水がそれぞれに対応していますが、土俵では、中央が「土」の黄となります。(※この他にも十干や十二支、八卦など対応する要素がいくつもあるのですが、複雑になるのでここでは省略します)

高松塚古墳の壁画 最近ではキトラ古墳の内壁画であらためてクローズアップされましたが、ひときわ美しかったのは高松塚古墳の壁画でした(右図参照)。

このように古墳の四方の内壁に描かれるのは、玄室(棺のある場所)を四神相応の空間と為すことで、死者に平安をもたらそうとするものです(「四神相応」は風水の根本原理なので、本欄では今後も追々解説して行きます)。

 
八卦良い、残った!
 

さて話はふたたび大相撲に戻ります。土俵の上に大きな「吊り屋根」が掛かっていますが、その四隅にそれぞれ色の異なる大きな「房」が下がっているのに気付いたことはありますか?

アナウンサーが審判の交替を告げるとき「青房下審判は○○親方、元関脇○○山です」などとその位置を示すのに吊り屋根の「房」の色で紹介します。「アオブサシタ」「クロブサシタ」──そういえば聞いたおぼえが、あるのではありませんか?

青房、赤房、白房、黒房が吊り屋根の東南西北にそれぞれ配されています。そして中央が土用の黄色で「黄土」とされています。まさに陰陽五行で、四神相応というわけです。

横綱は、四色の房に象徴される四神の見守る結界で土俵入りし、地から天へせりあがる。力強く四股を踏むことで、地の負(陰)を鎮め、天の勝(陽)へと祈り上げる呪術的作法なのです。ちなみにこの所作は、もともとは陰陽師の反閇(へんぱい)という歩行術から来ています。

行司の掛け声「ハッケヨイ」というのも、あらためて考えると不思議な言葉だと思いませんか?「ハッケヨイ、ノコッタノコッタ!」このようなボキャブラリーは、私たちの日常にはまずないでしょう。

ハッケヨイ」とは「発気揚揚」がなまったもので、気を高めて全力で勝負しようという意味との説もありますが、私は「八卦良い」と解釈しています。地鎮祭が滞りなくおこなわれた結果、良い八卦になったので安心、という訳です。もっとも「気」も「卦」も風水用語で、いずれも意味は通ります。

地鎮祭の様式は、時代によって地域によって多少の変化はありますが、その意味するところから一貫するものは不動です。土俵入りと同様に、地鎮祭はその地に四神相応をバーチャルで出現させるものです。そして中央に斎庭(ゆにわ)という結界を造ります。

よりていねいにおこなうのであれば、忌竹(斎竹)は榊に代えて、また四神を表す四色のひれを四方に下げてご奉仕したいものです。ちなみに「古事記」では「根こそぎの榊」と示されているので、本来は根の付いた一本の樹木としての榊がベストです。ただ、そうなるとなかなか手配が難しい。また、人の背丈よりも高いのが望ましいのですが、そういった事情から比較的容易に入手できる青竹で代用するようになったようです。

ちなみに、竹は日本人好みであって、七夕で五色の短冊を掛ける笹飾りや、戎講の「ささもってこい」の小枝、盂蘭盆会の盆棚など、神仏にかかわることには優先的に使われます。青竹の地鎮祭も、なかなか良いものです。

なお、神職から特に指示のない限り、供物(海の幸、山の幸)や御神酒(おみき)などすべて用意してくれますが、最小限「水」だけは自分で準備すべきです。その界隈の湧水や井戸水がベストですが、近年は便利なものがあります。ミネラルウォーターとして販売されている各地の名水です。今年の恵方(吉方位)は東北東(東微北)ですから、東京であれば鹿島・香取方面の水がおすすめです。

さて、地鎮祭が済んだら、いよいよ建築工事の開始です。つまり「八卦」が「良くなった」から、さあ建てましょう、ということですね。ハッケヨイ!

(第2回 了)
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