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風水で快適生活

第五回 ひな祭り
文/戸矢 学

ひな人形は、けがれを祓う?
 

ひな人形の原型である形式 「ひな人形は、一度使ったら、すぐに川へ流して捨てること。」
──こう言われたら、困りますか?

しかし本来は、そういうものなのです。

ひな人形の原型である形式人形は正しくは「ひとかた」と読みますが、形代(かたしろ)とも呼びます。
日本独自の祓え具・呪具で、最も簡単なものは、白い紙を人間の形に切り抜いたものです。

「地鎮祭」の回でもふれましたが、神職のお祓いの際に、これで身体をなでたり、これに息を吹きかけて、立ち会う人たちのけがれを移します。
その後、それを流水に流したり、燃やしたり、土に埋めたりするのが「お祓い」です。

陰陽師・安倍晴明は、これを人の姿に変えて使役していたそうです。私もぜひ見習いたいもので、時々酔余の果てに試みたりしていますが、まだ箸置きくらいにしかなりません。残念!

紙の人形は陰陽師の発明ですが、ひな祭りのひな人形はこれが原型なのです。
いまでこそ立派な五段飾りや七段飾りで、人形たちも豪華絢爛のたたずまいですが、古いものは「立ち雛」といって、紙の切り抜き人形によく似ています。(※京都国立博物館で見ることができます)

人形(ひとかた)は、アニメ『千と千尋の神隠し』で、傷だらけのハク(白い龍)を追いかけてきたたくさんの紙人形がまさにそれで、カンヌ映画祭でも、この日本独特の形状は新鮮な驚きをもって迎えられたそうです。

ひな祭りは「桃の節供」とも言いますが、桃という果実も古来けがれを祓う呪力があるとされています。
つまり、3月3日は一年のけがれを祓う日なのです。
正しい名称は「上巳(じょうし)の節供」。それは3月の初めの巳の日という意味ですが、いまは3日に定められています。

よい機会なので、古くから残る「五節供」を紹介して置きましょう。

 正月7日 人日(じんじつ)の節供
 3月3日 上巳(じようし)の節供
 5月5日 端午(たんご)の節供
 7月7日 七夕(しちせき)の節供
 9月9日 重陽(ちようよう)の節供

奇数月のみにハレの行事がおこなわれ、それぞれ季節のものを食べるのが決まりです。 この日は、お祭りで神様に神饌(しんせん ※お供物)を供え、そのお下がりを皆でいただくことによって、その霊力を取り入れます。これを神人共食といいます。

この食べ物が「御節料理(おせちりょうり)」です。
節に供される料理だから、御節料理。お正月の料理だけではありません。
だから、一般に書かれる「節句」ではなく「節供」が正しい表記です。「お節料理を供する日」のことなのですから。

 
お内裏様は、世界の太極?
 

私が子どもの頃は、女の子のいる家では必ずといってよいくらいに、緋毛氈の五段飾りや七段飾りが登場したものです。

私たち“男子”は、この日だけは余所者(よそもの)扱いで、着物姿の“女子”たちは、やけに気合いが入っていたようです。

しかし最近は、見かける機会も少なくなりました。
未就学の女の子がいる家は、まだ頑張っているようですが、まもなく「お納戸行き」になります。大事に仕舞われているだけに、すべてを出し入れするのは一仕事なのでしょう。
またそれだけの一大イベントを実行するほど、精神的に余裕がなくなったのかもしれません。

さて、ひな祭りの歌にもあるように、「お内裏様とおひな様」が最上段にペアで並んでいますが、このお二人は何者でしょう?

内裏(だいり)とは皇居のこと。つまり、天皇陛下と皇后陛下なのです。

風水では、帝ご夫妻は、陰陽の太極を表します。
その宮殿を内裏と呼びますが、とくに中心の施設を太極殿(だいごくでん)と呼んだのはそのためです。

太極は、このコラムのタイトル太極マークマークにも使っているで、世界の根元、世界の始まりを表しています。

天皇皇后両陛下のお祭りですから、これは元は公家の風習です。ひいな(可愛い)の祭りと呼ばれる一種の「ままごと遊び」が室町時代までに発展して出来上がったものとされています。

これに対して、5月の端午の節供は、まことに雄々しい男子の祭りで、武家の風習です。公家では女子を尊重し、武家では男子を尊重した、ということですね。

これを文学的に表現したのが本居宣長で、「たおやめぶり」と「ますらおぶり」としています。漢字で書くと「手弱女・振り」「益荒男・振り」です。日本文化の本質を表している二大要素とも言われています。

なお最近では「畏れ多い」ということで親王雛や大名雛と呼んで“格下げ”している例が多いようです。

しかしそれにしても、五段飾りや七段飾りが似合うのは、やはり一戸建て住宅でしょう。それも、庭のある邸宅。
日本の祭りや行事は、日本の伝統建築に合うようになっていますが、とくにひな祭りは、平安京の内裏や公家の住まいであった「寝殿造り」で盛んにおこなわれたものです。

寝殿造りは京都御所に見られるように、庭に築山(つきやま)や流水があって、そこを回廊が巡ります。
ここは、実は風水の理想郷である神仙郷をかたどっているのです。
築山は蓬莱山で、水朱雀と青龍の流水がこれを守ります。

吹き放しの釣り殿では、季節ごとに月見や雪見などの催しもおこなわれますが、なんといってもその白眉は、上巳の節供に開催される「曲水の宴」でしょう。

本物の五人囃子による雅楽をBGMに、満開の桃の花を愛でながら、歌を競い、酒杯を干す。
あでやかな雅(みやび)の世界です。
それを見おろす「雛壇」は、まさに最高の宮殿の“雛形”です。

※飾りかたなどについての詳細は、社団法人日本人形協会の人形辞典を参考にしてください。


(第5回 了)
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