| 日本人は雨と共存共生 |
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いよいよ梅雨入り、雨の季節の到来です。
日本では六月の長雨と、九月の長雨は年中行事。わかっていても、「鬱陶しい日々」と嘆く人は少なくありません。
とくに近年は雨量が増加して、土砂災害なども増えており、洪水や土砂崩れは地方ばかりか、首都圏でも重要な課題になっています。
かつて、『岸辺のアルバム』という連続ドラマが高視聴率で評判になりましたが、けして“昔話”ではありません。
このドラマは、多摩川の堤防が決壊して、岸辺の住宅が流されたという実話をベースにしたものです。実際に被害に遭った人たちの、
「家族のアルバムを失ってしまったのが一番ショック」
との証言に刺激を受けて、脚本家の山田太一氏が書き下ろしたものでした。
破綻しかけていた家族が、水害を機にあらためて絆(きづな)を確認するという展開で、テレビドラマの歴代ベスト10では、しばしば一位に選ばれる名作です。
こういうドラマを見ると、河川の岸辺に居住している人たちは「もしかすると」と思うこともあるかと思います。とくに梅雨時は、いつになく雨量も多いので、いつにない事が起こるのではと、用心は必要でしょう。
雨を降らないようにする訳には行きませんが、それでも雨と「共存」「共生」するためのたくさんの知恵があることは知っておきたいものです。 |
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| 河川の力 |
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地理風水では、「水」を重要視します。
「風水」という呼び名からしても、「風」と「水」に注目していると分かりやすいですね。
とくに流水、つまり河川との関係を重視します。
たとえば毛沢東の生地が、背後に山のある平地で、ぐるりと河川に抱かれた構造の風水に優れた地理であることは良く知られています。
また京都(平安京)は、三方を山に囲まれた盆地であるとともに、鴨川の存在が風水立地を決定付けています。
日本の国土は山岳が九割以上を占めるという特徴から、世界的にも稀にみる河川の多い地理条件です。
そのおかげで、古来きれいな水に恵まれて、山葵(わさび)のように常に流水で育てる産物があるほどです。──ちなみに山葵は日本原産で、もともとこの風土に自生していたものです。日本料理を特徴づけている“功労者”ですね。 |
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| 水害を避ける土地 |
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土地の見立てには様々な基準がありますが、そこには通底する「原理」や「基準」があります。
それに基づいて宅地を選定すれば、水害は基本的に避けられます。
たとえば神社、とくに 古社 といわれるものは、水害のニュースに登場することはまずありません。それは、地理風水の原理・基準に適合しているからです。(ただし、広島の厳島神社などいくつか例外はあります。海や河に由来する信仰は、むしろ水を求めるものですから)
この原理・基準に合致している住宅地は、まさに安全と安心の住み心地ということになるでしょう。
たとえば東京の山の手地区や、下目黒、白金、南平台などは河川との位置関係で成立した住宅地で、水害を含む自然災害に強いという条件が整っています。
江戸時代に大名屋敷として選定された場所は、ほとんどは陰陽師(もしくはそれに準ずる技能の人材)が地理風水の手法によって見立てたものですが、その土地が現在も「山の手」や「高級住宅地」になって継承されています。
もともとそういう「選定」があったことは、現代人はほとんど忘れてしまっていますが、地理は正直です。
ただ近年は、再開発で地形そのものが変わったり、河川が暗渠(あんきょ)となったりして、選定された当時とは異なる状況も発生しています。
そういった地域は、まったく新たな災害に見舞われないとも限りませんから、あらためて検証する必要があるでしょう。 |
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| 日本では「恵みの雨」 |
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| ところで、6月の長雨である梅雨は「つゆ」とも「ばいう」とも読みますが、「つゆ」が日本独自のヤマト読みで、「ばいう」が漢語読みです。
「つゆ」は「露」。──つまり、水のかたまりであって、水分の蓄えにつながります。
「ばいう」は「黴雨」。──つまり、黴(カビ)を発生させるものであって、食物の腐敗や病気につながります。
雨期というものに対する見方に、国民性の違いが端的に表れていますね。
日本では古くから「恵みの雨」という発想が根付いていて、ちょうど田植えの時期に重なるところから、むしろ例年通りの降雨となるよう祈るものです。
いわゆる「龍神信仰」もその一つで、恵みの雨をもたらす尊い神として信仰されてきました。
しかし一方で、過剰な湿度との闘いがなかった訳ではありません。
一年の暮らしの中でも、梅雨時は食あたりや黴の発生はもちろん際立っていて、その対策は必要です。
そこで生まれたのが、畳や漆喰壁や大黒柱です。
それらの湿度調節機能は、実はみなさんの想像をはるかに超えるものなのです。 |
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| 正倉院の奇跡 |
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木造家屋の長所の一つに「湿度の調節機能」のあることはよく知られています。
鉄筋コンクリート製のマンション住まいでは、「結露」など梅雨時の湿気に共通の悩みがありますが、木造の伝統工法で建てられた家屋では、あまりそのような悩みは発生しません。これは建材である木材が調節機能を持っているからです。
つまり、梅雨時のような湿度の高いときにはある程度木材が吸収してくれて、逆に冬場の乾燥する時期には水分を吐き出してくれる。──まるで意志を持っているかのような有機的な機能は、石やコンクリートにはないものです。
しかもこの機能による恩恵は単に日々の暮らしが快適であるというにとどまりません。
正倉院は、聖武天皇以来の御物を千三百年もの長きに渡って保管してきたことで知られていますが、その理由は校倉造(あぜくらづくり)という木造建築にあります。
もともと木材というものは切り倒した時点から乾燥が始まります。やがて空気の湿度とバランスがとれるまで乾燥させて、この時点で建築用材として使われることになります。歪みやひび割れも、本来はその時点で完了するものです。
したがって、木材は常に周囲の湿度とバランスをとろうとしており、これが穏やかな湿度調節になるのです。
だから乾燥が不充分だと、建ててから歪んだりするという訳で、材木屋にずらりと木材が立ててありますが、あのように一定期間「空気に任せる」必要があるのです。 |
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| 木材の超能力! |
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それではどの程度があるべき乾燥かというと、日本の風土を基準とした状態で、含有水分率が10〜15%。この状態を木材の乾燥としています。
これを使って建造された家は、もし仮に室内の湿度が40パーセント上がったとすると、その時に幅10センチ、長さ3メートルくらいのヒノキの柱一本が約1.2リットルもの水分を吸収してくれるのです! 驚くべし。
梅雨時にマンションでエアコンをドライにすると、室外機からかなりの水分が流れ出しますが、木と紙でできた日本の伝統家屋はそれに匹敵する働きをしているということです。
畳も同じで、しかもムリヤリ乾燥するのではなく、穏やかに自然に吸湿し、今度は乾燥した際には水分を自ら補充してくれます。
ちなみに、新たに建造された正倉院の収蔵庫は、防災のためにRC鉄筋コンクリート建築ですが、内部には分厚いヒノキの板が張り巡らされています。もちろんこれは飾りではなく、機能のためであることは言うまでもありません。RCと木材のドッキングは、歴史が生んだ最高の建築技術なのです。
(第11回 了)
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