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第十二回 暦(こよみ) 高島易を標榜する民間暦各種
文/戸矢 学
  高島易を標榜する民間暦各種

和式のカレンダー
 
年末師走の恒例行事の一つに、暦(こよみ)の配布があります。
年に一度発行される暦は、いまではいろいろなところから発売されていて、コンビニでも買うことができますし、新聞の集金人がサービスで持ってきたりもします。
もともとは農事暦といって、農業(漁業なども)を営む人たちに有益な天文情報が中心でした。
「日読み」と書いて、「かよみ」と読むのが語源です。
これが訛って「こよみ」になったという訳です。
つまり、暦とは本来「日月星晨(にちげつせいしん)」を読む=知るものなのです。
しかし現代では、だいぶおもむきが違うようですね。
とくに都市部では、農業と縁が薄いためもあって、もっぱら十二支や九星の運勢などを見るのが目的になっているようです。
しかしこれはこれで、新年一年の方針を考えるのには、よい機会かもしれません。

ところで、今のような冊子タイプの暦が年末に配られるようになったのは江戸時代からのことですが、伊勢神宮オリジナルの暦である「伊勢暦(いせごよみ)」がその元になっています。

伊勢暦/宝暦十二年 歌川国芳「縞揃女弁慶」より、伊勢暦に見入る女性
伊勢暦/宝暦十二年(筆者蔵)
歌川国芳「縞揃女弁慶」より、伊勢暦に見入る女性。
 
これは、各家庭に伊勢神宮の神札──神宮大麻(じんぐうたいま)というお札──と一緒に配られたものです。
神宮大麻とは、どこの家の神棚にも必ず納められている「天照大御神」と書いてあるお札のことですが、毎年年末に地域の氏神や産土神社(うぶすなじんじゃ)から各家々に配布されることになっています。
伊勢暦は、その付録のようなものでした。
その昔は、写真のようにアコーディオン状・蛇腹状になっていて、新年度の吉凶日や年回り、などが書いてあります。
要は、和式のカレンダーですね。
江戸時代には現在のようなカレンダーというものはなく、これを手元に置いて、必要な時に開いて見る、というものでした。
当時はこれ以外に暦は存在しません。
7世紀から明治になるまで、実に1300年間もの間、日本では暦博士(れきはかせ)が編纂していました。
暦博士は、天皇直属の国家公務員で、陰陽道家の賀茂氏が代々世襲していたものです。
 
“正統派”の神宮暦
 
伊勢暦は、明治になって「神宮暦(じんぐうれき)」に姿を変えます。
暦博士が廃止され、東京帝国大学に役割を移管、そこで編纂し、伊勢の神宮司庁が発行するもので、これも神宮司庁に独占頒布権が保証されていました。
つまり、他の誰にもその権利はなかったということです。
実は、第二次大戦終結の昭和20年より以前には、冊子タイプの暦はこれ以外には存在しなかったのです。意外なことかもしれませんが、「高島易云々」などというように表紙に書かれているものは、戦後生まれの新しい文化なのです。
高島暦は、幕末から明治にかけての実業家・高島嘉右衛門が、易断家としても名を馳せたことに由来するものです。
しかし現在発行されている暦のほとんどは、とくに高島本人とは関係はないようです。
「易断は商売にしない」というのがポリシーだと、本人の言葉が残っています。
いずれにしても民間暦の特徴は「運勢」や「易占」にあります。

これに対して“正統派”ともいうべき「神宮暦」は、吉凶判断などの暦注は一切記されていません。
これは「本暦(ほんれき)」というのが正しい名称で、天文や気象の綿密な情報が主体の、きわめて科学的なものです。
これを元に壁に貼るタイプの一枚刷りにして発行することが、明治になって初めて民間でも自由におこなえるようになりました。
いわゆる“企業カレンダー”の原点ですね。

神宮暦/大暦(本暦)と小暦(略本暦) 略本暦一枚刷り(筆者蔵)
神宮暦/大暦(本暦)と小暦(略本暦)(筆者蔵)
略本暦一枚刷り(筆者蔵)
 
「六曜」は諸葛孔明の発案か
 
ところで、現在、皆さんにもおなじみの洋式のカレンダーには、基本的に月日と曜日しか記してありません。
ところが、なかには「大安」とか「仏滅」などという書き込みのあるものがあります。
これが、和式の暦の名残りです。
和式の暦には、六曜(ろくよう)や行催事、潮の干満など多様な“情報”が記されています。
かつてはこれを見て、暮らしの基準にしていたものです。
とくに農家では、農作物の種まきや収穫のためになくてはならないものでした。
また、結婚式を挙げる日や、家を建てる時の建前の日は、「良い日を選んで」おこなうものです。
その「良い日」の目安として、六曜の「大安吉日(たいあんきちじつ)」などが選ばれます。
六曜とは、ご存知のように先勝友引先負仏滅大安赤口の六つ。
別名「孔明六曜星(こうめいろくようせい)」とも言われるもので、陰陽師の元祖でもある諸葛孔明が発案したとされています。
孔明は、これを兵法の原理として活用したともいわれます。

六曜においては、毎年1月1日は先勝、8月15日は仏滅、というように決められています。
以下に、これまで巷間で信じられてきた意味合いを記しますが、迷信の要素が強いものもありますので、どうぞこれに振り回されないようにご用心!

先勝】──「せんしょう」「せんかち」「さきがち」などの読み方があります。
「先んずれば、すなわち勝つ」と言う意味で、「急ぐことよし」「訴訟事よし」の日とされます。午前中は吉、午後は凶、とも。

友引】──「ともびき」「ゆういん」などの読み方があります。
「凶事に友を引く」と言う意味です。「勝負無き日」「引き分け日」ともされます。
陰陽道では「災いが友に及ぶ日」を友引日と呼びますが、その影響を受けているようです。朝晩は吉、正午は凶、葬儀は凶、とも。

先負】──「せんぷ」「せんぶ」「せんまけ」「さきまけ」などの読み方があります。
「先んずれば、すなわち負ける」と言う意味で、「万事に平静であることが良い」とされています。午前は凶、午後は吉、とも。

仏滅】──「ぶつめつ」とのみ読みます。
「仏も滅亡するような最悪の日」と言う意味とされ、六曜の中での大凶日とされます。
この日には、婚礼など祝い事を避ける習慣は広く一般に浸透しています。
しかし元々は「空亡(くうもう)」という称であって、「万事が凶」ということから「物滅」と称されるようになったものです。
それがいつのまにか「仏」の字が当てられるようになりましたが、仏教と六曜は無関係です。
ちなみに空亡とは、気学でいう「天中殺」のことであるといえば、わかりやすいかもしれません。
天中殺は12年に2年間めぐってきますが、仏滅は6日に1日めぐってくるというわけです。
釈迦の命日である旧暦2月15日が必ず仏滅になりますが、それは偶然です。

大安】──「たいあん」「だいあん」などの読み方があります。
「大いに安し」の意味。元は「泰安」と書いていました。
「万事に吉」の日で、とくに婚礼や結納はこの日に集中するようです。

赤口】──「しゃっく」「じゃっく」「しゃっこう」「じゃっこう」「せきぐち」などと読みます。
午の刻(11時〜13時)のみが吉で、それ以外はすべて凶。
特に祝い事は大凶とされます。
 
「七曜」は日本オリジナル
 
六曜よりももっと一般的なのは、日曜日から月曜日までの「七曜」です。
一週間、すなわち七曜の呼び名は、日月は太陽と月ですから、陽と陰ですね。
お日様とお月様、つまり太陽と太陰です。
そして火星、水星、木星、金星、土星です。
太陽系の惑星で肉眼で見えるものを当てはめています。
つまり、「陰陽と五行」ですから、一般に中国からの輸入と思われているはずです。
ところが、なんとこれは日本生まれの日本文化なのです。

近年まで、中国には曜日の概念はありませんでした。
一週間=七日間という数値的な概念はありましたが、それぞれの日に“性格”の区別はありません。
星期日(日曜日)の次から星期一、二、三、四、五、六と数え、ふたたび星期日(日曜日)となるのが一週間です。
しかし近年は、欧米の影響で日曜日以外も曜日で呼ぶようになっているようです。

ところで太陽系のおぼえ方。「水金地火木土天海冥(すい・きん・ち・か・もく・ど・てん・かい・めい)」が最近変わりました。
今年は、冥王星をめぐってドタバタがあったので、ご記憶のひとも少なくないと思います。
8月に開催された国際天文学連合 (IAU)の総会で、 それまで明確でなかった惑星の定義が定められ、その結果、冥王星は惑星ではなくなりました!
惑星の定義がこれまでなかったこと自体が不思議なことですが、七曜の惑星は不動です。

ちなみに、英語の七曜は、北欧神話に由来しています。

軍神チュール(Tiw)の日 → 火曜日(Tuesday)
主神オーディン(Woden)の日 → 水曜日(Wednesday)
雷神トール(Thor)の日 → 木曜日(Thursday)
愛,美,豊穣の女神フレイア(Freya)の日 → 金曜日(Friday)
農耕神サトゥルヌス(Saturnus)の日 → 土曜日(Saturday)

これらに太陽の「日曜日(Sunday)」と月の「月曜日(Monday)」を加えて七曜(週Week)としています。
洋の東西を問わず、陰陽は万物の根源なのですね。
ちなみに、本稿のタイトルの頭に付いている太極マークは、太陽と太陰が合体したもので、「陰陽全体」を指すものです。

なお、新年の暦は、年末に古いお札を納めに行く時か、または初詣の時にでも、神社の社頭で入手してください。
そしてお雑煮を食べながら、新年の運勢を見て、「一年の計」を考えましょう。
(第12回 了)
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